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キタローの独白

こういう文章書くの、昔からすごく好きなのです。
冬合わせの主ベス本の序章でもあります。サンプル代わりに、HP見ている人だけに。
宜しければどうぞ。
 ※まだ納得いってない部分があるので変わる可能性がありますが...




 時計はアナログに限る。
 最近はデジタルでも頻繁にカウントアップするものが増えたが、やはりアナログでギミックなものがいい。カチコチと刻まれる秒針の音を聞くたびに生きている実感がする。
 幼い頃、とてつもなく大きな恐怖に襲われた。
 そのせいか、大抵のことに物怖じしない可愛くない子供となった自覚があった。心臓の音は平坦で、揺れることがない。
 時を刻む音だけが生きている証。恐怖を知らない分、喜びも少なかった。無感動な瞳で見る世界は滑稽で、つまらなかった。
 瞼を下すように、世界を閉じた。形見の音楽を愛し、身を埋めるようになった。現実を生きる人は創られた世界だとあざ笑うけれど、馬鹿みたいに真面目に生きるよりはマシ。
 歌で創られた世界は美しい。ひとつの物語を形成するように感情豊かで、聴いているこちらさえも影響を受ける。支配される感覚がたまらなく心地良い。
 自分ではない別の誰かに生き方を定められるくらいなら、現実とは程遠い夢物語に縛られたかった。目の前で起きたことに何も出来ず、ただ恐怖に立ち竦み、佇むことしか出来なかった非力な自分が、不思議な魔法の力を手に入れ、何でも出来てしまうと錯覚できる世界へ旅立ちたかった。

 影時間の存在にはすぐ気づいた。
 夢と現実の境界を踏み越える瞬間は果てなく恐ろしい。耳にかけた音楽も、腕時計の音さえも途切れ、ここ十年味わっていない恐怖と隣り合わせになる。
 明確なる『死』の訪れ。
 血塗られた時計盤を背に、進むしかない。外部音がシャットアウトされてしまった以上、自らの意思で生命の音を紡ぎ出すしかない。
 生きている心地なんて、最初から無かった。
 カーテンを開くと、空の色が怪しかった。大きな満月が不気味に綺麗な夜だった。部屋の外へと連れ出されたのは、夜が完全に更けた頃。
 建物をよじ登ってきた未知なる生物が、一昨日出会ったばかりの女の子を突き飛ばす。
 時を失った世界に轟く音。足元に銃が滑ってくる。
 しろがねの光が「おいで」と誘う。使い方を知らないくせに、手が吸い寄せられた。
 導かれ、おもむろにこめかみに当てる。

「ペ」
 十年前の惨劇の光景が、いつまでも僕を苦しめる。
「ル」
 逃げても、逃げても――精神さえ乗り越えて、呑み込むように侵食してくる。
「ソ」
 ならば、反旗を翻すチャンスなんじゃないだろうか。
「ナ」
 恐怖を激情に塗りかえ、呪縛を解き放つのだ――引き金の指先に力を入れた。

 ぶち抜かれた思考、ひびわれた世界が、砕け散った硝子のようにパキンと割れる。夢と現実の狭間から顕現したのは神だった。願い、焦がれた力が形となる。
 この時、自身を満たしたのはどうしようもない高揚、どうにもならないと突き放していた世界を揺るがす力を手に入れた奇跡の瞬間だった。

 影時間が訪れる。ホルスターの重みを感じながら、今日もあべこべの迷宮を訪れる。ひゅんと剣をしならせ、刃についてしまった真紅を振り払い、上へ上へと駆け上がる。
 もうひとつの鼓動がいたずらに、そっと囁く――その音は終焉へのカウントダウンだよ。
 そんなことも知らずに、自分は――今日も生きている。

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